トラベラーズチェック(英語:Traveler's cheque/Traveler's check)は、旅行や出張など海外渡航の際に、多額の現金を持ち歩かなくても済むように発行される外国旅行者向けの小切手。日本では旅行小切手(りょこうこぎって)ともいう。略してTCまたはT/Cということもあるが、日本国外では "T/C" という表現はあまり使われず、"TC" または "Cheque" が一般的な表現である。
目次 |
海外渡航中の現金の盗難・亡失といったリスクを回避する手段として、T/C発行元の保証により紛失時に再発行可能な小切手として用いられるものである。基本的に渡航前に所要金額分のT/Cを購入し、行先国で銀行や両替商、ホテルのフロント・キャッシャーにおいて額面の現金へ換金する。所定の手続を踏んでおけば紛失や盗難などの亡失時にリファンド(refund, 再発行)が受けられるのが最大の特徴である。
19世紀末にトーマス・クック社が最初に考案し、ヨーロッパ域内であっても行先国によって治安環境が異なる旅行者の不安を払拭させることに成功した。その後、アメリカン・エキスプレスが参入。同社は当時既に旅行事業の拠点を世界中に有しており、その後開始されたクレジットカード(アメリカン・エキスプレス・カード)サービスによる金融部門の発展で、現在、T/C取扱高において首位となっている。
T/C購入・売却の際の外国為替相場における為替レートは、外貨預金の預け出しや外貨建海外送金に使われる「対顧客電信相場」(TTS/TTB) が適用される。外貨現金への両替には、対顧客相場に "Cash handling charge" を加味した「現金売/買 (Cash, selling/buying) レート」が適用されて1通貨当たりの交換比率が劣ることから、これがトラベラーズチェックのもうひとつのメリットとなる。特に日本円とオーストラリア・ドル間は対顧客相場と現金建てのレートが10%前後(三菱東京UFJ銀行の場合)乖離しているため、T/Cの発行手数料を加味しても現金両替と比べて5%程度は得となる。これをエピソードにしたアメリカン・エキスプレス日本支社の広告(テレビCMなど)が2003年に展開された。
日本では20世紀後半以降海外旅行の一般化により、T/Cは馴染みのものとなっているが、クレジットカードの普及や海外キャッシュカードの登場に伴い、必ずしもT/Cが必須であるわけではない。ただし、利用時に取扱手数料が加えられるクレジットカードやキャッシュカードより、為替レートやリファンドサービスにおいてはT/Cが優位である。
昭和30~40年代には地方銀行の共通商品として国内旅行用トラベラーズチェック(商品名:OKチェック)が販売されていた。アメリカなどの消費者生活では送金手段として頻繁に扱われる個人小切手(パーソナル・チェック)が日本では極めて少数(経営者などの富裕層や海外取引者向け)しか用いられないため、トラベラーズチェックが初めて手にする「小切手」となる者が多い。
日本では外国為替業務を取り扱う銀行(ゆうちょ銀行直営店と同行の代理業を受託した郵便局の一部を含む)、外貨両替店で購入できる。地方銀行や信用金庫では取扱量の観点などから自前では取り扱わず、香港上海銀行東京支店と提携した宅配両替サービス「マネーポート」へ取次ぎの形で受託している形態が多い。
購入の際は外国為替相場のうち、外国送金にも適用されるTTS(Telegraphic Transfer Selling rate, 対顧客電信売り)レートになる。外貨現金を購入する際はCash Sellingというレートが適用されるが、TTSはCash Sellingよりも有利な交換レートになっている。詳細は為替レートを参照。
一般的に購入の際に1-3%ほどの発行手数料がかかる。日本の税制においては、外国への支払手段にかかる手数料は消費税非課税[1]なので、トラベラーズチェックの発行手数料に消費税は課せられない。
日本円建てのトラベラーズチェックを購入する際は、日本円の額面金額プラス1 - 3%の発行手数料(販売する金融機関により異なる)を支払い、現地で使用する時に、日本円のトラベラーズチェックと現地通貨の交換レートが適用されて両替することになる。現地で利用する際の為替リスクを引き受けることにはなるが、渡航する国のトラベラーズチェックがない場合は日本円の現金→アメリカドルのトラベラーズチェック→現地通貨の現金という二重の両替の手間と為替の損を考えれば有効ともいえる。ただし、日本円のトラベラーズチェックは東南アジアの一部の国などや、都市部以外では使用できない場合もある。逆にアメリカドルのトラベラーズチェックはおおむね世界中どこでも通用する。
トラベラーズチェックには所有者の署名(オリジナルサイン、またはホルダーズサイン)欄と使用時の署名(カウンターサイン)欄の2か所の署名欄がある。購入後すぐに全ての小切手にホルダーズサインをしなくてはならない。使用時に相手の面前でカウンターサインをし、両者の一致によって小切手としての効力を発するほか、ホルダーズサインがないトラベラーズチェックについては亡失時の再発行も行われない。使用時に身元確認のためパスポートを必要とする場合もあるのでパスポートの署名と一致していることが望ましい。
なお、誤って使用時署名欄に予めサインをしても、使用時に所有者署名欄にサインをするようにすれば、単に「使用時」と「所有者」の欄署名順が入れ替わるだけのことで、問題なく使える場合が多い。ただし所有者署名欄にまでサインをすると、#換金・使用にある「カウンターサインまで事前にしてしまった」状態となる。
使用する際は、必ず相手の面前でカウンターサインをしなくてはならない。カウンターサインがない限り小切手として有効ではないが、逆に「面倒だから」とカウンターサインまで事前にしてしまうと、盗難・亡失の場合現金をなくしたのと同じで補償が受けられなくなることがある。また、正当な所有者かどうか疑われて再度カウンターサインを面前でさせられることになる。パスポートなどの身分証明書の提示や、滞在ホテル名、自宅住所などを記載させることもある。
アメリカ、オーストラリアなどにおいては、一般に外国人旅行者がよく利用する施設、たとえばホテルや空港、土産物店、有名百貨店などでは、会計時に即時換金することが出来、現金と同様に使用できることが多い。釣り銭が発生する場合は現金で渡される。
その他の国・地域では、事前に銀行や両替所で現地通貨に両替をしておかなくてはならない。現地通貨への交換レートはトラベラーズチェックを購入した時と同様に同じ通貨の現金の交換レートよりも有利であるが、トラベラーズチェックを現地通貨に両替する場合は、提携金融機関を除き、手数料がかかる場合がある。アメリカン・エキスプレス発行のトラベラーズチェック提携銀行に持参すれば、手数料無料もしくは比較的安い手数料で換金できる。
開発途上国や中南米の銀行においては、T/Cの換金が特定のブランドしか受け付けていない場合がしばしば見受けられる。
全ての国の通貨でトラベラーズチェックが発行されているわけではなく、以下の通貨のでのみ販売されている。銀行小切手のように任意の金額ではなく、商品券や債券のように額面単位が決められており(USドルでいえば50ドル、100ドル、500ドルなど)、それを組み合わせて購入し、使用する。
クレジットカードの国際ブランドとして外国為替決済を引き受けているアメリカン・エキスプレス・VISA・マスターカードブランドによるものである。アメリカン・エキスプレスは自社で発行を行い、VISA・MasterCardブランドについてはクレジットカードと同様に、各国の金融機関が提携のうえ、発行・販売している。
世界最初のトラベラーズチェックを発行したトーマス・クック・グループは、1980年代に金融業務をミッドランド銀行(香港上海銀行の前身)へ売却し、その後トラベレックス社へ譲渡している。そのトラベレックスもThomasCook-MasterCardトラベラーズチェックの発行を終了しており、日本国内のトラベレックス・ジャパンでは、現在アメリカン・エキスプレスのトラベラーズチェックを販売している。
自国通貨建てのT/Cが現地銀行から発行されており、その在外支店(海外支店)で購入できるものがあったが、当該国でも商業的な流通性は少なく、銀行でしか換金できない。次のものは既に発行を取りやめている。
日本国内で現在も販売を継続しているのはアメリカン・エキスプレスのみ。
トーマス・クックの肖像画が紙幣のように描かれている。
資金洗浄防止のため、ほとんどの金融機関で、1日の換金上限額を設けている。
旅行後使い残している時は、外国為替取扱金融機関・ゆうちょ銀行(トラベラーズチェック取扱窓口)・両替商で売却して日本円の現金に戻すことができる。売却は購入したところでなくてもよいが、ゆうちょ銀行などではVISAやMasterCardブランドのT/Cは受け入れていない場合もある。売却の際の交換レートは原則としてTTBレートが適用される。購入時と同様に外貨現金の売却レートCash Buyingよりも有利である。ただし、トラベラーズチェック・現金とも売却レートは購入レートよりも低いので、よほど短期間に為替レートの大幅な変動がない限り、通常はいくらか損をすることになる。トラベラーズチェックには有効期限がないので、使い残してもそのまま次の旅行のために保管しておく、あるいはトラベラーズチェックによる外貨預金の預入を取扱っている銀行もあるので、それに充てる、という選択肢もある。